【保育士よちよち日記】

インフォメーション
題名 | 保育士よちよち日記 |
著者 | 大原 綾希子 |
出版社 | 発行:三五館シンシャ 発売:フォレスト出版 |
出版日 | 2023年4月 |
価格 | 1,430円(税込) |
「仕事に追われまくる仕事」
現役保育士が垣間見た、
保護者には言えない話
――保育学校では教えてくれないこと
私の知っている保育士の多くは、新卒で保育士として採用され、保育現場で悪戦苦闘してきた人たちである。
人の命を預かるという重責を背負いながら、保育士たちはギリギリの人員で、到底さばききれない膨大な業務をこなす。事務仕事や催し物関連の作業、会議や研修も多い。子ども一人一人としっかり向き合いたいと思っていても、そうできないことがある。
――本書には、私の目から見た、そんな保育現場のあれこれを、良いことも悪いことも包み隠さず描いた。すべて私が実際に体験したエピソードである。
引用:フォレスト出版
ポイント
- 保育士たちはみな正解を持たずに悩みながら、自分なりの「子どもとの向き合い方」を導きだそうと日々努力している。
- 保育園という組織の中で、自分に与えられた仕事を粛々とこなしていく。派遣保育士の多くはそう割り切って、今日も仕事と向き合っている。
- 子どもたちといると、私の人生はより深く、より豊かになる。
サマリー
正解がない仕事
保育の現場には”正解”がない。
子どもの数だけ個性があり、日々の出来事や体調、成育環境や保護者、社会情勢(コロナなどの感染症を含む)などでも対応方法は変わってくる。
保育士たちはみな正解を持たずに悩みながら、自分なりの「子どもとの向き合い方」を導きだそうと日々努力している。
正解がない仕事だからこそ、「子どもとの向き合い方」は自分たちで決めるしかない。
私は、40歳をすぎて保育士試験を受験し、保育業界に身を投じた。
これまで派遣保育士として十数か所の認可保育園で勤務してきた。
保育業界には特有の慣習がある。
子どもの世界と大人の世界が混在し、カオスになっている場面にも数多く遭遇する。
本書には、私の目から見た、そんな保育現場のあれこれを、良いことも悪いことも包み隠さず描いた。
本書にあるのはすべて私が実際に体験したエピソードである。
保育士たちは、子どもたちの安全と安心のために日夜、奮闘し続けている。
そんな保育業界のリアルな姿を一人でも多くの人に知ってもらえれば嬉しい。
保育士の多忙すぎる日々
むなしくて、やめちゃいたい
保育士になった私はある保育園に正社員として入社した。
しかし、入社して数日で違和感を覚えた。
保育の素人である経営者の1人が、保育士に高圧的に指導し、深夜まで及ぶ職員会議の「残業代は払えない」という状況だった。
結局、たった1週間で、正社員として働き始めた保育園を辞め、派遣保育士の道を選んだ。
派遣会社に登録して3年になるころ、鷲平保育園の2歳児クラスに配属された。
コロナ禍の最中は、日々大量のおもちゃの消毒が必要で、子どもたちが昼寝をしている間、派遣保育士はひたすらおもちゃを消毒する。
一緒に作業を始めた派遣保育士が愚痴り始めた。
「私保育に入れるのは1日に1時間あるかないかで、あとは、ずっと消毒、消毒、消毒なんです。毎日こんな作業ばっかりでなんのキャリアにもならないし、むなしくて、もう辞めちゃいたいです」
そして、消毒作業が終わり、結果を常勤保育士に報告すると彼女は言った。
「え?今までやってたの?時間かかりすぎよ。そんなに時間かけなくていいから」
後日、その常勤保育士が消毒作業を行っている様子をそっと目で追ってみると、彼女は見事にやっている”ふり”をしていた。
消毒用タオルでおもちゃを素早く撫でるだけで、次々と消毒済みの箱に積みあがっていったのだ。
保育園という組織の中で、自分に与えられた仕事を粛々とこなしていく。
派遣保育士の多くはそう割り切って、今日も仕事と向き合っている。
派遣保育士の哀しみ
給食が終わって、お昼寝の準備を始めたときだった。
3歳児担任の保育士が、こまえちゃんともめている。
「おむつにしない!」
「でも、お昼寝のとき、おしっこでちゃうでしょ?お布団濡れたら困ると思うんだけど?」
3歳になるとおむつは外れパンツで過ごす子も増えてくる。
そんな中、自分だけおむつにするのが恥ずかしいのだ。
「イヤ!絶対、パンツ!」
「イヤ、イヤ、イヤ~!」
こまえちゃんのぐずりに根負けしたのか、担任の先生が私に向かって言った。
「こまえちゃん、パンツのまま寝るそうなので、お昼寝の途中で起こしてトイレに連れて行ってもらえますか?」
指示を受けた以上、「できません」と反論できないのが派遣保育士の哀しさである。
寝つきが悪く、寝起きも悪いこまえちゃんを途中で起こして大泣きされる確率は100%だ。
午後2時、こまえちゃんはスヤスヤと寝入っている。
「こまえちゃ~ん、起きて~」と肩を揺すると、予測した通り、「ぎゃぁあぁあうぅぅぅ~!」言葉にならない寝起きの悲鳴が保育室に響いた。
必死の思いでトイレに連れていくと、ブレイクダンスのように床に寝転がり、全身での猛抗議が続く。
そこに他クラスの常勤保育士がやってきた。
「どうしたの、どうしたの、起きたくなかったの?そりゃそうだよね~」
これだから派遣保育士はと言わんばかりの表情でこちらを一瞥し、抱っこしたこまえちゃんの背中をさすり、そのまま保育室を出て行った。