【非正規介護職員ヨボヨボ日記――当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきます】

インフォメーション
題名 | 非正規介護職員ヨボヨボ日記――当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきます |
著者 | 真山 剛 |
出版社 | 発行 三五館シンシャ/発売 フォレスト出版 |
出版日 | 2021年4月 |
価格 | 1,430円(税込) |
「介護職は最後の手段」
それでも私が続けるワケ
介護職員が立ち尽くす
老いと死の現場
――それは想像を超えた風景
介護の世界は想像をはるかに超えた、汚く危険で、きつい世界だった。
次々とマイナス面を掲げることができる介護の仕事、それなのに私は今も介護ヘルパーを続けている。
だからといって、この仕事に生きがいを感じ始めた、なんてことはまったくない。
最後まで読んでいただければ、なぜ私がこの仕事を続けているのか、少なからずご理解いただけるのではないかと思う。
――本書は、介護現場の末端で見つめ続けた「老い」と「死」のドキュメントである。
引用:フォレスト出版
ポイント
- 短気な人間はこの仕事には向かない、自分は短気じゃないと日々言い聞かせている。施設内ではあくまでも「利用者は神様、職員は奴隷」、その言葉を心の奥で何度も繰り返す。これも仕事だと割り切ればいいのだ。
- 北村照美は57歳のバツイチ女性、我が施設の権力者であり、自分の権威を誇示するように人前で職員を叱るのだ。めったに笑わないが、笑った顔は元横綱の朝青龍に似ている。
- 施設選びのポイントを述べたい。普段生活している入居者の部屋を見せる施設も多いが、見学できる部屋は優等生のモデルルームのようなものである。できれば、それ以外の入居者の部屋も覗いてほしい。
サマリー
流れ流れて、介護職員
「さっさとやれよ」:介護ヘルパーは奴隷か?
「仕事には段取りというものがあるんだよ、ホント素人だな、お前」、
元左官職人で78歳の加藤さんが、厳しい口調で仕事のイロハを説く。
といっても彼は、個室のベッドに仰向けに横たわり、下半身は完全に丸出し、おまけに失禁しているので、防水シーツからは濃厚な匂いが立ち上り、部屋はその臭いで充満している。
介護の仕事を始めて、尿の臭いにも個々の特性があるのだと知った。
「真山、さっさとやれよ!」
彼の陰部や太股に付着した尿をふき取り、新しいシーツに取り替え、パッドをはめて、その上から夜用の紙おむつを履かせる。
作業中も加藤さんは、「痛い、しめすぎ」だの「お前の頭は臭い」などと言いたい放題だ。
こんな時、介護ヘルパーは被介護者の奴隷なのかと自虐的になる。
短気な人間はこの仕事には向かない、自分は短気じゃないと日々言い聞かせている。
施設内ではあくまでも「利用者は神様、職員は奴隷」、その言葉を心の奥で何度も繰り返す。
今までと同様、これも仕事だと割り切ればいいのだ。
すぐ辞める人、まだ辞められない人
1週間で辞めた:「僕、無理な気がします」
「カーテン開けましょうね」と、幸助くんは部屋主である永吉やす子に話しかけながら、カーテンに手をかけた。
そのとき、ベッドで横になった状態のやす子さんが、「雨ならカーテンを開けないで。最近雨を見てると気分が滅入るから」と幸助くんに注文をつけた。
彼は入居者の希望が最優先だと思い、カーテンを閉め直し室内灯をつけた。
やす子さんは「ありがとう」と彼に言って微笑んだのだ。
それから1時間後、幸助くんは再びやす子さんの部屋にいた。
彼の傍には、職場の施設管理者である北村照美の姿もあった。
北村照美は57歳のバツイチ女性、我が施設の権力者であり、自分の権威を誇示するように人前で職員を叱るのだ。
めったに笑わないが、笑った顔は元横綱の朝青龍に似ている。
北村はいつもの調子で、「窓を開けて換気してカーテンを開ける。これ常識だと思いますけど」と幸助くんを攻め立てる。
「いや、やす子さんから外は雨だから開けないでと言われたものですから。やす子さんに聞いてもらえば…」、
幸助くんのこの一言が火に油を注いだ。
彼女は彼を血走った目でにらみ、「あんた、自分のミスをやす子さんのせいにするの?」と怒りが収まらない。
やす子さんには認知症の症状があり、1時間前の彼とのやり取りなど全く覚えていないのだ。
彼が素直に北村の叱咤を受け入れなかったことがすべての災いとなり、それから北村の執拗ないじめが始まったのである。
誰一人、彼女に意見する職員はいなかった。
情けないが、わたしもその1人である。
私は、経営していた会社を畳んで介護の仕事に就き、借金もまだ完済できずに、今も分割で払い続けている。
年金受給まで数年あり、体が続く限り働かなくてはならないので、今はまだここを辞めるわけにはいかない。
「真山さん、どうしたら北村さんとうまくやれますかね」、入社4日目の彼から事情を聴いた。
「今まで、彼女から目をつけられて辞めた人間、ごまんといるからね」、そう言いながら自分でも答えになってないと思った。
「僕、無理な気がします」
結局、幸助くんはわずか1週間でここを去っていった。
私は幸助くんに何の力にもなれなかったのである。