【マンション管理員オロオロ日記】

インフォメーション
題名 | マンション管理員オロオロ日記 |
著者 | 南野 苑生 |
出版社 | 発行 三五館シンシャ/発売 フォレスト出版 |
出版日 | 2020年10月 |
価格 | 1,430円(税込) |
「若者はまずやらない仕事」
住民の不服、苦情、その最前線
管理員が見つめる鈍色のドラマ
――どん底からの奮闘の記録――
大反響を呼んだ『交通誘導員ヨレヨレ日記』シリーズ第4弾
マンション管理員といえば、エントランス横にある小さな事務所にちょこんと座っている年輩男性というイメージをお持ちの人が多いのではないだろうか。
たしかに管理員は高齢者と相場が決まっている。若くてもせいぜい60歳くらいだろう。
ところで、なぜ老人ばかりなのだろう。
ずばり言おう。賃金が安いからである。
――本書は13年のあいだ、管理員室から眺めてきたドキュメントである。
はじめにより
大阪の分譲マンションに夫婦住み込みで勤務する私の現在の給料は月15万円。
そこから所得税や健康保険、雇用保険、住民税などが天引きされ、実質手取りは13万円強といったところである。「副管理員」という立場の家内のほうは月にもよるが平均で6万円強。そこから上記のものが差し引かれる。手取りだと夫婦合わせて20万円に満たない額なのである。
これだけ賃金が安ければ、ほかに働き口がある若者はまずやってこない。
それともうひとつは、マンション管理員という職業が、若者ではこなせない職務内容を多分に含んでいるからであろう。
はじめからケンカ腰で怒鳴り込んでくる人もいれば、酔っぱらってフラフラになって駆け込んでくる人もいる。酸いも甘いも噛み分けた器量の持ち主でなければ、本来できない職務なのである。
引用:フォレスト出版
ポイント
- マンションの使用細則には「管理員に私用を依頼しないこと」とあるが、「病院に行きたいので、タクシーを呼んでほしい」と、タクシーの手配をさせられることもある。
- 立体駐車場に入れておいたクルマが消えたと、住民が管理員室にやってきたが、間違って別のパレットにクルマを入れていただけだった。
- ほぼ毎日クレームを言いにくる“札付き住民”がいる。彼女はある日、「ベンチで若い子がキスしてた」と苦情を言ってきた。
サマリー
小間使い
私たち夫婦は、分譲マンションの管理員室に住み込みで勤務している。
マンションの使用細則には「管理員に私用を依頼しないこと」とある。
しかし、今日も管理員室には、住民の若い奥さんから「病院に行きたいので、タクシーを呼んでほしい」という電話がかかってくる。
電話に出た家内はタクシー会社の電話番号がわからないと言ったが、「お金を払うから、そちらで調べてほしい」と頼まれ、104に電話し、タクシーの手配までさせられた。
やがて、笑顔でエントランスにやってきた奥さんは、とても病院に行く人とは思えない、きちんとした服装だったという。
翌日、私がいる管理員室の窓口に現れた奥さんは、2枚の10円玉を差し出した。
「昨夜の電話代、払っときますわ」
「いや。結構です」
管理員は、現金は扱えない。
「臨時収入」扱いにして管理組合の収納口座に入金すれば、それ以上の振込手数料が発生してしまう。
「お身体のほうはよくなられたんですね。104にも電話がかけられないほど具合が悪かったとか。ところで、奥さん、次回からはこうしたことはご自分でなさるようにお願いしますね」
奥さんはバツが悪そうに去っていった。
「お金を払うから」は、「仕事に見合う対価は払う」という意味ではなかったのだろうか。
手間暇はサービスとしても、104での番号案内は1件につき60円、住民宅とタクシー会社への数回の電話代もかかっている。