【#ハッシュタグストーリー】
インフォメーション
題名 | #ハッシュタグストーリー |
著者 | 麻布競馬場 (著), 柿原 朋哉 (著), カツセ マサヒコ (著), 木爾 チレン (著) |
出版社 | 双葉社 |
出版日 | 2024年2月 |
価格 | 1,650円(税込) |
登場人物
・南条涼香
和田の友達。
・和田ひかり
南条の友達。父親の死後、転校する。
・渡良瀬
学級委員。サッカー部。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
呪文のような言葉
南条は頭の中で、稚拙な単語のつながりを繰り返す。絶望的な状況を前にして、捻り出された言葉の音とリズム。
ウルトラサッド・アンド・グレイトデストロイクラブ。
意味はわからずとも繰り返しているうちに、南条は、全身から抜けていたはずの力が、再び湧き起こってくる気がした。いけ。ぶっとばせ。いけ。いけ。
呪文に背中を押されるように、南条は一気に床を蹴って、体を起こしリビングから寝室に駆け込む。ずっと使っていなかったゴルフバックからクラブを抜き出す。南条は両手に握りしめ男にスイングした。男の細くて大きな体が、うつ伏せになって倒れ込む。
南条は走馬灯のようなものを見た。十年前の記憶。十七歳だった南条たちの高校時代の記憶。
無茶苦茶にする
文化祭で何をするか、運動部がおもしろくもないアイデアを次々に投げ込む。
南条はくだらないと思いながら、ただ黙って時が過ぎるのを待っていた。
南条だけでなく、多くの生徒がそうしていた。
学級委員の渡良瀬が誰も意見を言わないからと和田を指名した。
クラスから名前も覚えてもらえないほど存在感のない和田は、頭を下げたまま、机の一点だけを見続けていた。
沈黙が教室を通りすぎ、運動部が責付いた。そんなとき小さな声で「無茶苦茶にするのがいいと思う」と和田は言った。
「無茶苦茶にする」という言葉の響きは、高校生が持て余したエネルギーを発散させるキーワードとしては、十分すぎる魅力を放っていた。教室は盛り上がり始めた。
その翌々日に、和田の父親が死んだと、学校に訃報が流れた。
不法侵入
気を失って倒れている男の脈を恐る恐る確認し、大きく息を吐いた。
男のデニムのポケットから果物ナイフがはみ出ていた。血の気が引く。
南条は携帯電話を手に取ると、110番を押した。
五年前に出会ったきりだった男。
突然マンションに来て、まるで自分の家かのように、悠然と玄関の扉を開けリビングに入ってきたのだ。
腰が抜けたときに頭によぎったのが、ウルトラサッドアンドグレイトデストロイクラブ。
クラスが団結
和田の父親は飲酒運転で亡くなった。
お酒を飲むと和田の母親を殴っていた。
葬儀場で和田が泣いていなかった理由を、南条はなんとなく悟った。
そして和田は二学期で転校することになった。
親が死んで、住んでいた街を離れる。クラスの誰もが和田に同情した。
文化祭は和田の「無茶苦茶にする」という言葉をきっかけに、教室の中に小屋を作って、中の物を好きなだけ壊すという『ウルトラサッド・アンド・グレイトデストロイクラブ』に決まった。
いつの間にか、クラスは強く強く団結していた。
有耶無耶に消える
文化祭まで二週間というところで、先生たちで話し合った結果、出展を取りやめすることになった、と担任が話した。
怪我をしたら危ない、学校が暴力を肯定するのか、保護者から学校に連絡があったという。
和田が転校してしまうまでの最後の思い出作りもまたここで有耶無耶に消えた。
事情聴取
南条は警察で事情聴取を受ける。
事情聴取の内容が南条の行動に原因があったのではないか、という疑いをかけられているような内容で怒りを覚えた。
ここまで散々な目に遭って、恐怖心が体を冷たくさせていた。
誰も味方がいないように思えるこの場所で、和田に会いたいと思った。
その願いだけが、悲劇ばかり起こるこの一日を、ギリギリのところで支えていた。