【この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた】

インフォメーション
題名 | この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた |
著者 | ルイス・ダートネル/東郷 えりか |
出版社 | 河出書房新社 |
出版日 | 2018年9月 |
価格 | 1,078円(税込) |
ゼロからどうすれば文明を再建できるのか? 穀物の栽培や紡績、製鉄、発電、電気通信など、生活を取り巻く科学技術について知り、「科学とは何か?」を考える、世界十五カ国で刊行のベストセラー!
引用:河出書房新社
ポイント
- 現代の作物の品種はいずれも、何千年に渡り丹精込めて選び、交配してきたものであるため、植物を失えば、文明を早く再建する望みは失われてしまう。
- 食料品の保存には、微生物はもちろん、あらゆる生き物が生きるのに必要な環境条件を考慮しなければならない。
- 調理と発酵は胃の消化を助けるために利用されるが、同様に、衣類は私たちの体が自然にもっている、生物としての生存能力を高めるものである。
サマリー
序章
本書は生存者のための手引きである。
大破局のあとの数週間を、単に生き長らえるというものではなく、科学を応用したテクノロジーを使い、高度に進んだ文明の再建を教えるものだ。
現役で使える物が一つもない状況に突如置かれたら、内燃機関や時計をつくる方法を説明できるだろうか。
もっといえば、どうやって作物をうまく育て、衣類をつくるのかといった根本的なことすら分からないであろう。
本書が想定する大破局のシナリオは、思考実験の出発点でもある。
知識がどんどん専門化する現代において、ひどくかけ離れたものに感じられる科学や技術の基礎を、検証するための手段である。
農業
崩壊の後は、できるだけ多くの作物を回収して保存するため、大急ぎで行動しなくてはならない。
現代の作物の品種はいずれも、何千年に渡り丹精込めて選び、交配してきたものであるため、植物を失えば、文明を早く再建する望みは失われてしまう。
草が伸び放題になった耕作放棄地や裏庭の家庭菜園などは、食用植物を探すための場所として理にかなっているのだ。
しかし、私たちの食生活における主食は穀物なので、運がよければ放置された納屋から、何年後かに発芽する種の袋を探しだせるかもしれない。
次に考えなければならない問題は、どうやって一握りの種をもって、ぬかるんだ土地に入り込み、冬がくる前に、そこから食糧をこしらえるかである。
これはさほど難しくないと思われがちだが、作物が栽培されている農地は非常に人工的な環境であり、そして自然はつねにそれに反発してくる。
さらに植物は、人間の体と同じように、バランスのとれた栄養も必要とする。
まずは、作物を培養することの基本を徹底的に検証することから始めよう。
食糧と衣服
食品保存
食料品の保存には、微生物はもちろん、あらゆる生き物が生きるのに必要な環境条件を考慮しなければならない。
食品を保存する最も簡単な方法は乾燥させることだ。
水分が十分になければ細菌は繁殖できないので、空気で乾燥させるか日干しにする。
また、砂糖のように溶解する化学物質を大量に使うと、その溶液は非常に濃縮されたものとなり、微生物の細胞から水を引き出して、よほど手ごわい菌株以外は繫殖を食い止められる。
塩も人体の健康を維持するために必要なものであるが、保存用に使うときは大量に必要だ。
砂糖漬けと同様に塩漬けも、腐敗から食品を守り、濃度の高い塩水は細胞内の水を吸いだして成長を止める。
酸もまた侵入する大量の細菌に抵抗する偉大な味方であり、酢漬けにすることで保存料としての効果を発揮するのだ。
酸性の代謝物質を排出して細菌の繫殖を促す、キムチ・味噌・サワークラウトなどは、食品自体が保存料となり腐敗を防ぐことができる。
衣類
調理と発酵は胃の消化を助けるために利用されるが、同様に、衣類は私たちの体が自然にもっている、生物としての生存能力を高めるものである。
体温を保つ能力を向上させたことで、アフリカ東部のサバンナから遠く離れた地域まで、人類は広がることを可能にしたのだ。
わずか70年ほど前、人間は動物や植物からの自然素材を衣類にしていた。
ワタから積んだ、あるいは羊から刈り取った天然繊維の束を、生き延びるために衣類に変えるには、どんな基本的技術が必要なのだろうか。
紡績の目的は、ふわふわした短い繊維の塊を丈夫な長い糸に変えることである。
なんら道具を使わなくても、繊維の塊を引っ張り出し、指先で捩って細い糸にすれば糸を紡ぐことはできるが、この作業は恐ろしく時間がかかるので、実際は不可能であろう。
本書が中心と考えるのはウールである。
ウールは大惨事が起きたあとも、綿や絹にくらべて広い範囲で手に入り続けるはずだからだ。