【星を編む】
インフォメーション
題名 | 星を編む |
著者 | 凪良ゆう |
出版社 | 講談社 |
出版日 | 2023年11月08日 |
価格 | 1,760円(税込) |
登場人物
・北原
高校教師。
・片山敦
スノーボードの選手。明日見の彼氏。
・明日見菜々
総合病院の一人娘。
・北原結
明日見の子供。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
※『汝、星のごとく』の続編になります
総合病院の一人娘
北原は、夜遅くまで授業で使うプリントを作り、コンビニエンスストアへ出かけた。
公園の前を通りかかったとき、静かな夜の空気を乱すように、硬いものでがりがりと道を削るような音が聞こえる。
立ち止まって音のする方を眺めていると、通りの向こうから警官が自転車に乗ってやってきた。
近所の人からうるさいと通報がきているようだ。
敦は素直にスケートボードを脇に抱え、すみませんと頭を下げた。
近くのベンチから明日見が走り寄る。
どう見ても高校生だろう明日見に警官が目を向ける。
もう十二時近い深夜。
明日見はうつむき、敦はやばいという顔をしている。
「この子たちの高校の教師です。試合が近いので練習をしていました」と北原は助けに入った。
本当に北原は、明日見の高校の教師だった。
担当はしていないが、市内で名の通った明日見総合病院の一人娘として、校内でも目立つ存在であるため知っていた。
カップラーメン
化学準備室で昼食の支度をしていると、昨夜のお礼にと明日見がやってきた。
ちょうど湯が沸いたので、カップラーメンに湯を注ぎながら、北原はどういたしましてと答えた。
興味深そうにカップラーメンのことを訪ねてくるので、明日見にもカップラーメンを取り出すと、ぱっと顔を明るくした。
その日以来、明日見はたびたび化学準備室を訪ねて、カップラーメンを食べる。
高校生の妊娠
明日見がゆっくりと身体を前に倒していく。
くぐもった声が洩れる。
様子がおかしい。
北原は病院へ連れて行くと、明日見は妊娠していた。
中絶できない時期に入っている。
妊娠のことは両親も知らなければ、敦も知らない。
敦は、スノーボードの選手で世界ランキングも上がってきて、拠点を海外に移し競技に集中する。
そんな一番大事な時期に妊娠のことは言えるはずもなく、別れるつもりだと明日見は言う。
明日見が足繁く化学準備室に通ってきていたのは、つわりでカップラーメンしか食べることができず、生命維持という切羽詰まった事情があったのだ。
ひとりで産んで育てる
明日見の制服のウエストが留まらなくなった。
これ以上はごまかせないと、敦の名前は出さず、両親に打ち明けた。
子供は産ませないと言われ、産まれてくる子が殺されてしまうと思った明日見は、最後にもう一度、敦に会ってから家を出てひとりで産んで育てると言う。
明日見と敦の待ち合わせ場所に北原も向かう。
守るもの
明日見が小さく呻く。
ロングスカートから見えている明日見の足下に薄赤い水たまりができていく。
明日見はきつく唇を噛み締め、みるみる顔が青ざめていく。
もう考えている余裕はないと思った北原が、敦に明日見が妊娠していることを告げる。
敦がうろたえていると、通りがかりの若い男性グループが「あれ、スノボの片山敦じゃね?」とスマートフォンを出して敦に向ける。
敦が明日見に差し出した手を怯えたように引っ込めた。
明日見も北原も否応なくわかってしまった。
敦の背中には翼がある。
けれどその翼はまだ若く、脆弱で、敦ひとりを羽ばたかせるだけで精一杯なのだと。
明日見と生まれてくる子供を抱えて舞い上がることは、まだできないのだと。
小さな小さな声で「助けてあげて」と北原だけに聞こえるように明日見は訴えた。
「ぼくの子供です」と北原が告げると、敦は目を見開く。
裏切られたという怒りの中に、いいや、もしかしてという疑念が敦をこの場に縛りつけている。
これ以上人が集まる前に、騒ぎが大きくなる前に、早く。「…いいから、早く消えて」明日見と敦の視線が絡む。
敦がよろめいたように一歩下がった。
また一歩下がる。
小さな声で、ごめん、と聞こえたのは空耳だろうか。
人生のレールから外れる
北原は分娩室の前でぐったりとしていると、明日見の父親と母親がやって来た。
「生まれました。女の子です」という報告に、父親は怒りと失望が顔に広がったのを見てしまった。
無事に生まれてくれたという安堵も歓びもなく、逆に生まれてこなければよかったというような。
母親は転げるように分娩室へ入っていく。
北原は明日見が赤ちゃんと離れたくないと言っていること、落ち着いたら話を聞いてあげてほしいことを父親に伝えると、子供はなるべく早く、どこか裕福な家庭と特別養子縁組をし、明日見には子供は育ち切らずに死んだと伝えると父親は言う。
明日見の身に起こった事実を、両親に説明しなくてはいけない。
しかしその事実を説明して一体誰が救われるのか。
北原の手には、明日見と子供が共に歩める救いのカードが一枚ある。